愛するお母さんへ
お母さん、元気にしていますか? お久しぶりです。遅くなっちゃって、ごめんなさい。
わたしは今、琥珀色の髪の男の子で、闇使いのアンバーと、本人曰くどこかの王子で、長ったらしい金髪のラファとともに、旅をしています。
アンバーは見るからにお人好しな男の子ですが、キレるとこわいです。ラファはいつもこわいけど、キレたアンバーのストッパーになっていて、いいコンビだと思います。
もちろん、あたしも怪我をした二人を手当しています。ヒーラーとして当然ですから!
周りからはいいトリオだと思われるといいなあと、ちょっと思っていたりしています。
今日、何故ペンを取ったのかというと、わたしが母さんに会ったからです。と言っても、にせものでしたけどね。
金銭管理をしていたラファが、突然、賞金稼ぎを探すものだから、何事かと思ったら、なんと、金欠! お金がすっからかんになっちゃったそうなのです。
ラファは十二歳、アンバーは十一歳、わたしは十歳。こんなこどもに出来る仕事なんて、ほとんどありません。わたしの作った万能薬を売ろうかとも提案したのですが、ラファが一言、
「それで、治らなかったら、どうするつもりなんだ? 保証金とか結構かかるんだぞ」
とか言って、売らせてくれなかったのです。ひどいと思いませんか?
まあ、それは置いておいて。
昨日、なんと「こどもでしかできない」たのみごとがまい込んできたのです。
それは、わたしたちと同い年ぐらいのこどもたちが行方不明になる事件が多く起きている館の探索でした。
そこは通称、おばけやしきと呼ばれているところだったのです!
母さん、びっくりしているでしょう? こわいものが苦手なわたしがそんなところ行くなんてって。
でも、いまのわたしにはアンバーとラファがいます。たしかにこわい思いはしたけど……なんとかなるものですね。
どのようなことがおこったか、順を追って、ていねいに書きますと、わたしたち三人は、いらい者の管理人さんからかぎを借り、昼の十二時に、館へと入っていきました。
しかし、中は昼なのに、真っ暗で、何も見えないのです! そこでランタンをそれぞれ借り、一部屋一部屋見ていくことにしました。
アンバーが気になる部屋があると言って、入っていた部屋には、小さな水晶玉がありました。
わたしは、それに触れると、とてもなつかしいような、不思議な気分になりました。そして、急に眠たくなってしまい、そのまま眠ってしまいました。
(あとで、ラファが言うには、わたしの体がスッと消えたそうなのです。本当に不思議ですね)
目が覚めると、本がたくさんあるなつかしい母さんの部屋で、わたしは、母さんのひざの上にいました。
もちろん、びっくりしました。だって、母さんはもうすでにいないのですから。
母さんはなつかしい声で、
「かわいいわたしのさといむすめや」
と言って、わたしの頭をなでます。
わたしは言いました。
「母さん、あたしの名前を呼んで」
と。しかし、そのお母さんは、わたしの頭をなで、ニコニコと笑うだけ。
みょうに無気味に思えてきたあたしは、ふと、わたしをあることを思い出しました。
母さん、あなたはもうすでにいないということに。
わたしは、その母さんのうでをほどき、ダッシュでそのなつかしい部屋から飛び出しました。
にせものの母さんは、ゆっくりとした歩みでわたしを追いかけてきます。
とてもこわくなって、半分泣いていました。
ある曲がり角で、ドンと何かにぶつかりました。
そのまま、わたしは、その何かの上に乗ってしまいました。
わたしは大泣きしてしまったのですが、
「おい、重たいぞ。そこをどけ」
という声で、再びわたしを取り戻しました。
「ラファ!」
わたしは、ラファに馬乗りになっていたのです。
わたしは、あわてて、どくきます。ラファは立ち上がり、パッパッとズボンをはたくと、
「ったく、お前ったら……ホント、ガキだな」
といつものいやみな笑いをうかべて、わたしのことをバカにしてきました。
でも、わたしはそれどころじゃありません。にせものの母さんがやってくると思うと、パニックで仕方がありません。
偽物の母さんはゆっくりと近づいてきます。わたしは必死で
「こないでえええ!」
と叫び、ラファに抱きつきました。
その様子を見たラファは、落ち着いた様子で、
「ああ……お前もあの水晶玉に……」
というと、腰に付けた剣を鞘から抜き、偽物の母さんをけさきりしました。
母さんからは血が出ず、そのまま、砂となって消えてしまいました。
わたしはまた泣いてしまいました。そんなわたしをラファは、やさしくポンポンと頭を撫でてくれました。
「もう泣くな、プラチナ。こうなったら、アンバーが危ないんだぞ?」
「え?」
わたしは聞き返します。
「おれもあの水晶玉に吸い込まれた。そして、現れたのは親父。あいつ、むちゃくちゃきびしくってな。今の反抗的なおれがいるのは、あいつのおかげさ。お前も、お前の母さんがいなかったら、ヒーラーになっていなかっただろ? つまりどういうことだかわかるか?」
ラファはまくし立てるように、わたしに話しました。わたしは
「さっぱりわからないわ……」
と答えました。
「おれ達の一番影響を受けた人物が現れるんだよ。もちろん、心が反映されるから、バッタモンだけどさ」
「ってことは、アンバーも今、一番自分の人生に深く関わった人物と出会っている可能性があるって事?」
「そういうことだ。先を急ぐぞ、プラチナ!」
そんなこんなで、わたしたちはアンバーを探すことになりました。
ラファが、かえのランタンを持っていたため、暗いやしきの中をなんとか探索することが出来ました。
とにかく、たくさんの部屋があるのです。一部屋一部屋確認するのには骨が折れました。
倒れていた柱に足を取られ、転けたりもしました。痛くても、なんてったって、わたしはヒーラー。泣きません。自分で治します。
ある部屋をのぞいているとき、そう遠くない部屋から木がへし折られるような音がしました。
ラファとわたしは、目を合わせると、その音のあった部屋まで行きました。
音のした部屋まで行くと、アンバーがいました。
アンバーはこわれた本箱の下じきになっていました。
ラファは、アンバーの名前を呼ぶと、わたしと二人で、その本箱をどかそうとしました。しかし、アンバーは
「逃げろ! あいつがいるんだ! 殺される!」
と叫ぶのです。
何事かと思うでしょう。
でも、「何事」だったのです。
わたしたちの目の前には、赤い目をした白髪の老人がいました。真っ白なローブを着ています。一見すると、優しそうな目つきですが、その真っ赤な瞳のせいで、やはり無気味でした。
「こいつが……ラリマーだっ!」
ラファによって助け出されたアンバーを暗がりの中、よく見ると、彼の瞳もまた真っ赤になっていました。アンバーの闇の力が怒りで大きくなってしまっているのです。
そして、アンバーは、ラリマー(もちろんアンバーの心を反映したものです)に向かって、呪文を詠唱し、魔導砲を打ち込みました。
それはラリマーに当たりました。しかし、ラリマーは平気に立っています。
「くそおおおっ。こんな力なんて、いらなかったのに……! お前のせいで! お前によって植え付けられて! お前のせいでお前のせいで!」
アンバーは我を忘れて、魔導砲をノーコンで打ち込んでいきます。
危うく、わたしにも当たりそうになりました。バリヤーを張ったおかげで、無事でしたけど。
興奮したアンバーを止めるすべは、このラリマーを消さなければいけません。それは、さっきの水晶玉を探すということを意味していました。
「どうする。このままアンバーを放っておくと、アンバーの命が危ないし……かといって、あの水晶玉を探さないといけないし……」
ラファはほほをかいていました。(彼は考え事をしていると、こんなくせがでるんです)
わたしは少し考えました。ラファが言っていた、『わたしが水晶玉に触れたとたん消えた』ということから、考えられるのは……いくつもありますが、その一つにかけてみることにして、わたしは、ラファにこう提案しました。
「ねえ、この空間を斬る事って出来る?」
と。
ラファは
「はあ?」
と、わたしがとんでもないことを言っている様に言います。
まあ、当たり前だとは思うんですけれど。わたしだって、そう思っていますし。
「空間を斬るってどういうことだ?」
「ん……とね……多分、この空間が一種のイリュージョンなんじゃないかなあって」
「まどろっこしい! 結論を言え!」
「だから! ここは水晶玉の中ってことよ!」
「えっ?」
ラファは固まります。
「何言っているんだ? お前……」
「確証はないわよ。でも、可能性に賭けてみたいと思わない? このままアンバーが倒れるのを見逃すわけにはいかないわ」
ラファはふっと笑うと、
「それもそうだな。やってみるか」
と言った。そして、
「プラチナ、バリヤーを解け」
というので、あたしは、おとなしくバリヤーと解きました。
ラファは、剣を顔の前に持ってきて、集中し始めました。キラキラと光が集まってきます。(どうやら、ラファは光使いのようです)
そして、
「はっ」
と勢いよく剣を館の床に突きつけました。
床はガラスが割れたように、パリパリと音を立てて、崩れていきました。
わたしはひたすら叫ぶしかありませんでした。
目が覚めると、わたしは、さっきの水晶玉の部屋で倒れていました。
水晶玉は粉々に割れていました。
見回すと、アンバー、ラファの他に、行方不明だった複数の子ども達も寝ていました。
わたしは、おのおのを起こしていきました。
わたしたち以外の子どもたちも、わたしと同じくにせものの母親に取り込まれていたらしかったです。
にせもののお母さんは、とても優しくしてくれたそうです。
でも、いくら怒るお母さんでも、本物のお母さんの方が良いに決まっています。
一方、アンバーは泣いていました。
「あああ……あんな目に遭わなければ……僕は今頃幸せに……!」
過去のアンバーはラリマーに大変ひどい目に遭っていたようでした。
その『過去』が、さっき見た、むごたらしい戦いだったのです。
ラファはアンバーの頭をぽんとたたくと、
「お前がやろうとしていることは、確かに難しいかもしれない。だが、それをしようとしているその姿は、おれやプラチナを引き寄せる『何か』だったのじゃないのか? お前の過去は、ああいう残酷なものだったかもしれないが、そのおかげで、おれ達は出会えた。つまりだな、過去を振り向くな。今と未来を見ろ」
「今と未来……?」
「そう。過去は変えられないが、未来は変えられる。未来を変えるのは、今だ」
ラファの言葉に、アンバーはまた大泣きをしてしまいました。
アンバーの泣く声に、周りの子ども達も動揺してしまいます。
「とりあえず、落ち着けよ。報酬をもらいに行こう。泣くのはそれからだ。おれだって、過去を思い出すのはつらい」
ラファの目も潤んでいたのが印象的だったな。
それから、わたしたちは、管理人さんから、一ヶ月は旅が出来る大金をもらいました。
ヒーラー学校を卒業して、母さんと別れてから、もう二年がたったけど、いや、もう二年といった方が良いかな。ずいぶんと長い時間がたちました。
わたしは、ヒーラーとしてみんなの役に立っているか不安だけど、がんばるわ。
天国から応援しててください。
追伸
母さんがつけてくれた、あたしの本当の名前とおんなじ名前の花を見ました。
ラファが言うには、この花は、薬用に役に立つんだそうです。正直、知りませんでした。
(もちろん、ラファにバカにされました)
母さんは、わたしがこの道に進むことを見越して付けてくれたのかなと思うと、とてもうれしくなりました。
☆
「よしできた!」
「さっきから、すごく長い手紙を書いているけれど……誰に送るの?」
ベッドにうつぶせで寝ているアンバーは机に向かっていたヒーラー・プラチナに尋ねた。
「んーとね、母さん」
「お前の母さんは、ラリマーにやられたんじゃないのか?」
剣の手入れをしているラファの疑問に、プラチナは
「んー天国に手紙を送るのよ」
と明るく言い切った。
「どうやって送るの? 気になるなあ」
アンバーはベッドから降り、プラチナの書いた分厚い手紙を見る。
「なら、おいでよ」
プラチナはその手紙を持つと、部屋から出た。
☆
ヒーラー・プラチナは、町外れの公園まで走って行った。
アンバー、ラファも追いかける。
公園の中央で、プラチナは手紙を地べたに置くと、マッチを取り出し、それを擦った。
マッチからは炎が現れる。その火をプラチナは躊躇なく、手紙に移した。
「はあ、いわゆる『お炊きあげ』ってやつなのか」
ラファは納得したようだった。
「『お炊きあげ』? なにそれ」
アンバーはラファに訊く。
「ん……東方で、魂を天に送るために、炎で燃やすことらしい。多分、これは、それのまねごとだろう」
「ふうん」
アンバーは燃えていくヒーラー・プラチナの手紙をじっと見つめていった。
☆
その夜、ホテルの窓際で、短い茶髪の小さな女の子は、
「母さん……あたし、がんばって、カタキ打つからね!」
と天に祈った。